「 a mate of fate 」を読む前に

2018.12.05 (Wed)
西門の話(seize)が始まったばかりですが、道明寺の話についてご案内させてください。
この話は二部構成なのですが、前半に当たる一部はパスワードをつけることにしました。
主な理由は、

・舞台が戦国時代、登場人物が容赦なく死にます
・一部ややグロテスクな描写
・牧野がかわいそうな目にあってます
・全体通して暗く重たい
・メリーバッドエンド

この内1つでも駄目だと思った方は一部は飛ばして下さい。
一つの物語ですが一部、二部とそれぞれ単品で読むことができます。二部は糖分過多に要注意!(ハッピーエンド)

パスワード「 5522 」
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プロローグ

2018.11.29 (Thu)
「 理不尽な夜 」


シャワー音に混じる男の鼻歌が聞こえるたび、クローゼットを漁る手が震えた。
ドクドクと五月蝿い心臓は今にも飛び出てきそうだ。
一番奥に仕舞ってある弟の泊まり着を取り出し、ギュッと胸に抱え込む。

(もしかしてあたし、とんでもないことしてる?)

年齢イコール処女歴を金科玉条とし、二十四年間仕事一本で生きてきた姉が見ず知らずの男を部屋に連れ込んだ上に、シャワーまで使わせているのだ。
たまに泊まりに来るたびに「そろそろ良いひと見つけなよ」と母親のような口を叩く弟が知ったら何と言うか。
しかし結婚をせっついてくるような弟だ。
この事実を伝えてみれば案外「やるじゃん姉ちゃん!」と、姉の大胆さと積極性を褒め称える気もした。
「そんなふしだらな子に育てた覚えはありません!」とも言ってきそうだ。
ーーーーまあ、育てたのはあたしほ方なんだけど。

「あ、あのっ! 扉の前に洋服置いておきますね。弟のだからサイズが合わないかもしれないんですけど、乾くまでの間だけ我慢してください」

『おー、ありがとう』

扉越しに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。
廊下に着替えを直置きするのも躊躇われたつくしは、空のバスケットに服を入れてそれを扉の前に置くことにした。
つくしの住む部屋は築25年のワンルーム。
当然、ユニットバスなので、脱衣場はない。入ってすぐトイレと風呂だ。
シャワーを浴びている男はシャワーカーテンを引いているだろうが、タイミング悪く、中に入ってきたつくしと全裸でご対面してしまう可能性だって十分にある。
いくら「弟のモノ」を見慣れているとはいえ、未だ男性経験がない乙女にいきなり「他所モノ」はハードルが高すぎた。

あれこれくだらない事で悩んでいる間に、いつの間にかシャワー音が止んでいた。
つくしは慌てた。このまま扉の前で突っ立っていれば男に妙な勘繰りをされかねない。
男が出てくる前に部屋に戻ろう。そう踵を返した瞬間、「そういえば」と扉が開いた。
「えっ」思わず、振り返ってみたつくしは顔面から激突して、したたかに鼻をぶつけてしまった。

「〜〜〜っ!!」

両手で顔を押さえて蹲る。
痛い。はっきり言ってむちゃくちゃ痛い。目から花火が散り、続いて涙が溢れ出す。
ややして最初の衝撃から立ち直ったつくしは、恐る恐る鼻梁を摘んでみた。
やっぱり痛い。だが、あと少し経てばすぐに治りそうな痛みだ。
座り込んだままのつくしに、シャワーを浴びた男は驚いた。

「大丈夫? 俺が開ける前に一声かければよかったな」

「いえ……」

ゆっくりと顔を上げると、ぱちりと瞬きをする。男の顔に、瞠目した。
人生で初めて部屋に連れ込んだ男は、とんでもないイケメンだった。
今、水も滴る良い男とは、と問われればつくしは迷わずこの男を指差す。
同性だったら隣に並ぶのを遠慮する、嫌味なくらい顔立ちが整っていた。

ちなみに、芸能人顔負けの青年に、何故この瞬間まで気がつくことが出来なかったというと、答えは簡単で、それまで男が全身泥まみれで美醜の判別もできない程に汚れていたからだ。

改めて、まじまじと男の顔を眺めた。
対する男は、以後黙ったままのつくしにどう反応すればいいのか困っているようだった。

(現代に生きるガニュメデウス、いや、ちょっと違うかな)

つくしは驚きと同時に一種の感動を覚えた。
この男を表現するのに「イケメン」なんて陳腐な言葉は使いたくない。
脳裏に同僚の姿が思い浮かぶ。
こんな時、いい男に目のない彼女ならばきっと適正な表現を教えてくれたに違いない。

「あの、ほんとに大丈夫? 病院に行くなら付き添うけど」

困り顔まで綺麗って反則じゃない、と見つめたまま胸の中でぼやく。
結局何が言いたいかっていうと、なんというか、つまりその、あれだーーーー

「すごい顔ですね」

瞬間、美貌が歪んだ。

「…………。それは、褒め言葉として受け取ればいいのかな」

こくりとつくしが頷くのを見て、男は嬉しいのやら悲しいのやら。
なんとも複雑そうな表情のまま「そりゃどうも」と微笑んだ。

「その様子なら病院には行かずに済みそうだな」

「あ、はい。もう全然、痛みもないので」

正直、顔を見た時に吹き飛んでいた。

「それじゃ、弟君の服借りるね。流石に夏でもこのままじゃ風邪引いちまう」

「え?」

言われて、顔から視線を下にずらした。
用意した服はバスケットの中。なら、男は素っ裸のままで。
目に飛び込んできた肌色に、ぱっと朱が散り慌てて顔を逸らす。乙女に生肌は刺激が強すぎる。
耳まで赤くした初心な様子に、色男は笑いながら立ち上がった。
視界の端に男の素足が見える。
そしてその足元にはポタポタと今も水が滴り、小さな水溜りが出来ていることに気づいた。

(あれ、そういえばタオルって渡したっけ)

泥まみれのままの男を連れて帰り、すぐに風呂の中に突っ込んだ。
汚れた服を受け取って洗濯を回した。替えの服を探して、それからーーーー

「あ、そうだ。タオル貸してくんない?さっきそれを言おうと思ってたんだった」

ああ、やっぱりタオルは渡し忘れていたのか。
男の言葉に「すみません、すぐ用意します」とようやく腰をあげたつくしだったが、あるものを見て中腰の態勢のまま固まった。

タオルがない男は全裸で飛び出してきた。
それは扉にぶつかったあたしを心配してのことだから仕方ないのかもしれない。
そう、仕方ないのだ。
隠すものがない男が仁王立ちしているのも、全てつくしが悪い。

が、しかし。やはりどんな理由であれ、つくしには「他所モノ」はハードルが高かった。

「ぎゃああ!」

深夜二時。
マンションの一室から、女の絶叫と乾いた音が鳴り響いた。



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12月は西門の誕生月ですね。おめでとう理不尽。